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2016年10月22日(土)-24日(月)に豊嶋崇徳教授を副大会長として第25回日本組織適合性学会大会が北海道大学学術交流会館において開催されました

皆様

 2016年10月22日(土)-24日(月)に豊嶋崇徳教授を副大会長として第25回日本組織適合性学会大会が北海道大学学術交流会館において開催されました。

 優れたGVHD抑制効果と高い安全性から全世界的に近年急速に普及している移植後シクロホスファミド(PTCy)を用いたHLA半合致移植ですが、その歴史は古く1980-90年代に九州大学野本研究室の眞弓久則先生らが行った基礎研究にさかのぼります。眞弓先生はマウスモデルを用い、MHC適合およびMHC不適合のマウスの皮膚移植モデルにおいて移植後にシクロホスファミドを投与することで免疫寛容を誘導できることを示されました。さらに2000年代となり、この論文に着想を得たJohns Hopkins universityのEphraim J Fuchs先生のグループが、臨床応用として、PTCyを用いたHLA半合致造血幹細胞移植を発展させました。本邦では2012年に北海道大学血液内科教授に就任した豊嶋崇徳教授が中心となって全国の臨床試験を立ち上げ、有望な治療成績を実感しています。日本で生まれたアイディアは国境を越えて実臨床となり、今HLAのバリアを越えて世界の造血細胞移植臨床を変えようとしています。

 副大会長である豊嶋教授のご尽力により、今回の学会は眞弓久則先生、Ephraim J Fuchs先生が初めて対面するという歴史的な場となりました。

 まずは眞弓先生、Fuchs先生の貴重な会話をご紹介いたします。

Fuchs: 「今日はお会いできて光栄です。

     PTCyのアイデアは誰が最初ですか? 眞弓先生自身ですか?」

眞弓:    「いいえ、野本先生1)の教室で私の直接の指導者であった先輩の

     姫野先生2)です。彼が他のグループからの論文3)を読んでいて

     Cyを用いたtolerance inductionの研究を私にやらせたのだと

     思います。」

1) 野本亀久雄先生

                    九州大学名誉教授(九州大学生体防御医学研究所)

2) 姫野國祐先生

                    九州大学医学研究院感染免疫熱帯医学分野前教授

3) Nature 1963年の論文と思われる(豊嶋教授より)

 Fuchs先生はこのPTCyという素晴らしいアイデアがいったいどこから来たのかという点に強い興味をもち眞弓先生に尋ねておられました。眞弓先生は曖昧な記憶ではあるものの、おそらくは当時指導をしてくださっていた姫野先生が指示したものであったと語っています。

 眞弓先生は九州大学野本研究室でのMHC適合モデルを用いた研究の後、留学先のRobert Good先生(University of South Florida College of Medicine)の研究室でMHC不適合モデルでの検討を行い、PTCyの基盤を完成させていきました。しかし、留学から帰国し、しばらくして、米国の学会に行った際に、かつての同僚から「君が帰国した後、Good教授がGood-Mayumi methodと称して白血病の子供に実施したがうまくいかなかった」と言われたとのことです。非常に優れた基礎研究結果ではありましたが、当時は残念ながらうまくいかず、さらに移植直後に大量のシクロホスファミドを投与するなんてありえないという思想が多くの臨床医の根底にあったことからそれ以上の臨床応用への試みはなされなかったと考えられます。その後、眞弓先生はもともとは心臓外科医でありましたことから、循環器科クリニックを開業されており、PTCyが臨床応用され全世界的に普及してきたことを豊嶋教授からの連絡ではじめて知るところとなりました。

 眞弓先生は今でも変わらぬ研究に対する思いを話され、特にPTCyによる免疫寛容機序の根幹といえる抗原刺激によって分裂する細胞のみが選択的にCYにより破壊されるというclonal destructionという概念や、MHC不適合などドナーとレシピエントの抗原の違いが大きい場合にclonal destructionを逃れて残存するドナー抗原反応性成熟T細胞が存在するsplit toleranceという概念について熱心に議論されました。最後にはFuchs先生は是非一度ボルチモアに来てもらいたいと応じていらっしゃいました。

 Fuchs先生の講演では、PTCyによるHLA半合致移植について、眞弓先生の論文との出会いから、移植プロトコルの開発、今後の展望までをわかりやすく説明いただきました。

 眞弓先生、Fuchs先生らをはじめとし多くの先人の絶え間ない努力により現在のPTCyが成り立っていることを垣間見ることができ大変感銘を受けました。本邦における臨床試験の主導、保険承認に向けた準備など含め、豊嶋崇徳教授の指導の下、北日本血液研究会および北海道大学血液内科としてPTCyを用いたHLA半合致移植の発展に尽くしていければと思います。

(文責:杉田純一)

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左より豊嶋崇徳教授、Ephraim J Fuchs先生、眞弓久則先生

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当時眞弓久則先生が行った基礎的な検討の話題を中心に活発な議論が行われました。

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眞弓先生からFuchs先生にサイン入りの論文がプレゼントされました。Fuchs先生は大変喜んでいらっしゃいました。