臨床研究一覧
ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia: HIT)はヘパリン投与により抗PF4/ヘパリン複合体抗体(いわゆるHIT抗体)が産生され、HIT抗体が血小板や血管内皮細胞、単球を活性化させてトロンビンの過剰産生を惹起し、血小板減少とともに血栓塞栓症を引き起こす疾患である1)。HITの診断のために臨床的診断として4Tsスコアが広く用いられ、血清学的診断としてHIT抗体の測定が行われている。HIT抗体検査は感度が高くHITの除外診断には非常に有用である一方、特異度は高くないためHIT抗体陽性でもHITと確定診断はできない1)。そのため欧米ではセロトニン放出試験2)やヘパリン惹起血小板凝集試験3)などの機能的測定法(HIT抗体が健常者の血小板を活性化させるか評価する方法)が行われており、最近ではフローサイトメトリーを用いた機能的測定法4)も行われている。当院では機能的測定法のひとつである血小板マイクロパーティクル法を確立し、その有用性を示すため本研究を行う。また2023年1月に発売になった新規免疫学的測定法のHITイムノクロマト試薬の性能評価も行う。
測定希望の方は事務局( vitt-pf4@huhp.hokudai.ac.jp )までご連絡ください。
資料のダウンロード
- 研究計画書v2.1(PDF)
- 研究対象者募集v2.1(PDF)
- 症例登録票v2.1(PDF)
- 検体送付の手順書v2.1(PDF)
- 同意説明文書v2.1(PDF)
- アセント文書(小学1-3年・PDF)
- アセント文書(小学4-6年・PDF)
- アセント文書(中学生・PDF)
- 情報公開文書v2.1
Wordファイルで必要な場合、事務局( vitt-pf4@huhp.hokudai.ac.jp )にご連絡ください。
研究対象者及び適格性の基準
(1)対象者のうち、(2)選択基準をすべて満たし、かつ(3)除外基準のいずれにも該当しない場合を適格とする。
- 対象者
2023年3月27日~2026年3月31日の間に臨床的にHITが疑われている患者を対象とする。 - 選択基準
- 臨床的にHITが疑われている
- 本研究への参加にあたり十分な説明を受けた後、十分な理解の上、研究対象者本人の自由意思による同意が得られた者、もしくは研究の参加について拒否しない者
- 除外基準
その他、研究責任者が研究対象者として不適当と判断した者
試料の採取・保管、症例登録、同意の取得、倫理審査
- 試料の採取・保管
血清またはクエン酸血漿0.5〜2.0mL(血液5 mL程度)を-50℃以下で保存する。臨床の範囲内で採取していた血液の残余検体を用い、可能な限りヘパリン中止4時間以上が経過した検体を用いる(ヘパリンが混入した検体だと検査結果に影響を与える)。凍結した試料は凍結状態のまま(冷凍品扱い)北海道大学病院検査・輸血部に郵送し、検査・輸血部内で測定まで保存する。 - 症例登録
結果がわかる範囲で症例報告書に記載し、電子メールにて北海道大学病院の研究責任者に提出する。 - 同意の取得
既存試料・情報の提供のみを行う機関においては審査委員会で承認の得られた同意説明文書を用いて口頭で十分な説明を行い、同意を取得し、それをカルテ内に記載する。
また、既存試料・情報の利用についてインフォームド・コンセントを受けることが困難な研究対象者については、研究の目的を含む研究の実施についての情報を既存試料・情報の提供のみを行う機関及び北海道大学病院ホームページ等に掲載することで研究対象者に拒否をする機会を与える。 - 倫理審査
中央一括審査にて承認が得られた研究のため、各施設での倫理審査は必ずしも必要ではない。必要に応じて各施設で審査を行うこと。必要な書類は事務局から送付する。
研究事務局 | 北海道大学病院検査・輸血部・助教 安本篤史 |
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連絡先 | 事務局( vitt-pf4@huhp.hokudai.ac.jp ) |
既存試料・情報の提供のみを行う機関 | JCHO大阪病院・腎臓内科・中川和真、多摩総合医療センター・整形外科・黒田紘典、岡崎市民病院・心臓血管外科・薦田さつき、岐阜県立多治見病院・腎臓内科・古林陽一、大阪医科薬科大学・救急科・生塩典敬、東京大学医学附属病院・検査部・西川真子、湘南藤沢徳洲会病院・リウマチ膠原病アレルギー科・中下珠緒、熊本大学病院・循環器内科・辻田賢一/九山直人、大分赤十字病院・内分泌糖尿病内科・福山光、長崎医療センター・総合診療科・森民夫/西浦壮志、九州大学病院・循環器内科・藤野剛雄、市立宇和島病院・血液内科・鹿田久治、福井県済生会病院・血液内科・杉盛千春、杏林大学病院・脳卒中医学・河野浩之/川竹彩音、横浜医療センター・脳神経外科・田中悠介、富山大学・第二内科・中村牧子、自治医科大学・小児科・村松一洋、東京医科歯科大学病院・脳神経内科・野原理花、九州大学病院・腎疾患治療部・岩本昂樹、敬愛会中頭病院・腎臓内科・上原正樹、千葉大学医学部附属病院・循環器内科・加藤央隼、東京医科大学病院・臨床検査科・備後真登、聖路加国際病院・血液内科・正木哲寛、日本医科大学付属病院・心臓血管外科・石井庸介、東京医科歯科大学病院・膠原病・リウマチ内科・庭野智子、東北大学病院・神経内科・松本勇貴、国立循環器病研究センター・麻酔科・坂本和郎、 聖路加国際病院・血液内科・藤野貴久、岐阜県立多治見病院・腎臓内科・渡邉祥、三井記念病院・血液内科・黒田純一、防衛医科大学校病院・循環器内科・長野綾佳、国立国際医療研究センター・救急科・中尾友香、京都市立病院・血液内科・松井道志 |
参考文献
- ヘパリン起因性血小板減少症の診断・治療ガイドライン作成委員会,ヘパリン起因性血小板減少症の診断・治療ガイドライン.血栓止血誌2021; 32: 737-782.
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同種造血幹細胞移植は急性白血病などの血液悪性疾患や再生不良性貧血などの血液良性疾患に治癒をもたらしうる有用な治療法であるが、適切なドナーがいなければ実施することはできない。ドナー選択にはHuman Leukocyte Antigen (HLA) の一致度が重要であり、同種造血幹細胞移植に最も適したドナーはHLA適合血縁ドナーである。しかし、HLA適合血縁ドナーが得られるのは一部のみであるため、第2選択として骨髄バンクを介したHLA適合非血縁ドナーが、第3選択として臍帯血移植やHLA半合致移植が適応となる現状がある。
HLA半合致移植はHLAハプロタイプのうち1本を共有するドナーからの移植であり、同胞では50%、親子では100%の確率でHLA半合致ドナーとなるため、ほぼすべての患者においてドナーが得られる可能性があるというのが大きな利点である。しかしHLA適合移植と比較して、移植細胞によるレシピエントへの反応である移植片対宿主病 (GVHD)や、レシピエントの免疫細胞による移植細胞への反応である拒絶のリスクが高いことからこれまでは十分に普及してこなかった。近年、GVHDを引き起こすT細胞を除去する一方、感染症に関わるT細胞は比較的温存できる可能性がある方法として移植後シクロホスファミド(posttransplantation cyclophosphamide, PTCY)が開発され、世界中で急速に行われるようになっている1。
北海道大学病院では、2013年よりJSCT研究会において本邦におけるPTCYの有効性と安全性を検討するための複数の全国多施設共同第II相試験を実施してきた。最初に行ったHaplo13試験では、当時米国では中心であった骨髄ではなく、末梢血幹細胞 (PBSC)を用いてもPTCYは優れたGVHD抑制効果を示すことが報告した2。引き続き骨髄破壊的前処置 (MAC)を用いるHaplo14 MAC試験と、強度減弱前処置 (RIC)を用いるHaplo14 RIC試験の2つからなる全国多施設共同第II相試験を実施した3。MAC試験ではフルダラビン (Flu) 90 mg/m2 + 全身放射線照射(TBI) 12 GyまたはFlu 150 mg/m2 + ブスルファン (BU) 12.8 mg/kg + TBI 4 Gyを、RIC試験ではFlu 150 mg/m2 + BU 6.4 mg/kg + TBI 4 Gyを移植前処置として用い、移植細胞源としてはPBSCを、GVHD予防はHaplo13試験と同様にPTCY (50 mg/kg, day 3, 4) + タクロリムス (day5-) + ミコフェノール酸モフェチル (day 5-)の投与を行った。MAC試験では50例を対象とした解析を行い、生着率98%、II-I度の急性GVHDは18%、III-IV度の急性GVHDは8%、慢性GVHDは36%、2年時点での全生存率 (OS)は68%、無イベント生存率(EFS)は54%、非再発死亡 (NRM)は10%であった。またRIC試験では77例を対象とした解析を実施し、生着率94%、II-IV度 の急性GVHDは14%、III-IV度の急性GVHDは5%、2年時点での慢性GVHDは27%、2年時点でのOS 44%、EFS 35%、NRMは20%であった。MAC試験、RIC試験ともにGVHD、NRMは十分に低く、PTCYを用いたHLA半合致移植PBSCTにおいてMAC、RICはいずれも有用な選択肢であることを報告した。通常HLA半合致移植では免疫抑制剤を生涯使用することも少なくないが、本試験では移植後2年時点での免疫抑制剤中止割合が80%を超えていた点も特筆すべきである。
さらに我々はPTCY 80 mg/kgへの減量を試み、2つの前向き多施設共同第II相試験(Haplo16 RIC試験、Haplo17 RIC試験)を連続して実施した4。本試験では移植前処置は先行研究であるHaplo14 RIC試験と同一のFlu 150 mg/m2 + BU 6.4 mg/kg + TBI 4 Gyからなる移植前処置を用い、GVHD予防は移植後3日目、4日目に40 mg/kgのPTCY投与、day5からはタクロリムスとミコフェノール酸の併用を行った。先行研究であるHaplo14試験と比較し、grade IIの急性GVHD、mildの慢性GVHDが増加する可能性があるように思われるが、grade III-IVの急性GVHD、moderate to severeの慢性GVHDは変わらない印象である。PTCYの減量によりGVL効果の増強が得られるのかどうかについてはさらなる検討が必要であるが、PTCYでは重症GVHDの抑制効果が優れていることから、grade IIの急性GVHDやmildの慢性GVHDなど許容可能なレベルのGVHDを増やすことでGVLを誘導するような治療戦略にも期待がもたれる。
このようにHLA半合致移植においてPTCYは有効性、安全性とともに優れたGVHD抑制効果を示していることからHLA半合致移植以外の同種移植においても有用である可能性がある。現在、我々は特定臨床研究として「HLA適合または1-2 allele不適合ドナーからの同種末梢血幹細胞移植における移植後シクロホスファミドを用いたGVHD予防法の有効性と安全性を確認する第Ⅱ相臨床試験」5を実施しておりその結果に期待がもたれている(図1)
Reference
- Sugita J. HLA-haploidentical stem cell transplantation using posttransplant cyclophosphamide. Int. J. Hematol. 2019;110(1):30–38.
- Sugita J, Kawashima N, Fujisaki T, et al. HLA-Haploidentical Peripheral Blood Stem Cell Transplantation with Post-Transplant Cyclophosphamide after Busulfan-Containing Reduced-Intensity Conditioning. Biol. Blood Marrow Transplant. 2015;21(9):1646–1652.
- Sugita J, Kagaya Y, Miyamoto T, et al. Myeloablative and reduced-intensity conditioning in HLA-haploidentical peripheral blood stem cell transplantation using post-transplant cyclophosphamide. Bone Marrow Transplant. 2019;54(3):432–441.
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- https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCTs011190009
造血器悪性腫瘍を“根治”に導く治療である同種造血幹細胞移植では、移植ソースとして骨髄、末梢血幹細胞、臍帯血から選択される。このうち末梢血幹細胞移植(PBSCT)では、他の移植ソースと比較し、GVHD、特に慢性GVHDの増加が大きな課題として挙げられる。抗胸腺細胞グロブリン(ATG)を用いたGVHD予防法は、海外のランダム化比較試験にてPBSCTにおけるGVHDの抑制効果が示されてきたが、最適なATGの投与量は確立されていない。我々はHLA適合PBSCTのパイロット研究で、GVHD予防におけるATGの投与量を検討し、Thymoglobulin 2mg/kgの低用量投与によって、GVHDの誘導に関与するナイーブT細胞の抑制効果が得られることを見出した。1 この結果を基に多施設共同第II相試験(JSCT-ATG15)を行い、移植後100日におけるIII度以上の重症急性GVHDの発症率が1.4%、移植後1年における中等症~重症の慢性GVHDの発症率が5.6%と、低用量ATGの優れたGVHD抑制効果を示した(下図)。2 また非血縁者間PBSCTに対する全国調査を施行し、低用量ATG投与群では非投与群と比べ慢性GVHDの発症率は低率で、無GVHD無再発生存率も優れていることを明らかにした。3 また当院の症例での解析および全国調査での解析の両方において、ATG投与前のリンパ球数はGVHDや再発の予測因子となることが示唆された。3,4 このことよりATGを用いたGVHD予防における今後の展開として、リンパ球数に応じてATGの投与量を調整する“個別化治療”への発展の可能性が期待される。
Reference
- Shiratori S, Kosugi-Kanaya M, Hayase E, Okada K, Goto H, Sugita J, Onozawa M, Nakagawa M, Kahata K, Hashimoto D, Endo T, Kondo T, Teshima T. T-cell depletion effects of low-dose antithymocyte globulin for GVHD prophylaxis in HLA-matched allogeneic peripheral blood stem cell transplantation. Transpl Immunol 2018; 46: 21-22.
- Shiratori S, Sugita J, Ota S, Kasahara S, Ishikawa J, Tachibana T, Hayashi Y, Yoshimoto G, Eto T, Iwasaki H, Harada M, Matsuo K, Teshima T; Japan Study Group for Cell Therapy and Transplantation (JSCT). Low-dose anti-thymocyte globulin for GVHD prophylaxis in HLA-matched allogeneic peripheral blood stem cell transplantation. Bone Marrow Transplant. 2021; 56: 129-136.
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- Shiratori S, Kurata M, Sugita J, Ota S, Kasahara S, Ishikawa J, Imada K, Onishi Y, Ishiyama K, Ashida T, Kanda Y, Ichinohe T, Fukuda T, Atsuta Y, Teshima T. Graft-Versus-Host Disease Prophylaxis Using Low-Dose Antithymocyte Globulin in Peripheral Blood Stem Cell Transplantation-A Matched-Pair Analysis. Transplant Cell Ther. 2021; 27: 995.e1-995.e6.
肝類洞閉塞症候群(Sinusoidal Obstruction Syndrome: SOS)/肝中心静脈閉塞症(hepatic Veno-Occulusive Disease: VOD)は造血幹細胞移植後に発症する重篤な合併症のひとつである。SOS/VODを発症すると致死率が極めて高いため、早期に診断・治療を行うことが重要とされているが、黄疸、肝腫大・右季肋部痛、腹水・体重増加などの指標を用いた臨床診断では早期診断が困難であった。
SOS/VODの確定診断には経皮的/経静脈的肝生検が重要となるが、移植後の血小板減少や凝固異常、SOS/VODによる血小板輸血不応により施行困難である場合が多い。さらには生検を施行できてもSOS/VODに典型的とされる肝中心静脈の血栓性閉塞を証明できない場合も多い。
超音波検査(US)は侵襲なく肝臓サイズや血管径、血流状態を評価可能であることからSOS/VODの診断に有用であるとの報告がなされ、2016年、2019年に欧州骨髄移植学会(EBMT)から発表されたSOS/VOD診断基準に組み入れられた。しかし、USは測定方法、評価方法が一定ではなく、その標準化が望まれてきた。
これまで北海道大学病院では検査・輸血部の西田睦らを中心としSOS/VOD診断におけるUSを用いたスコア化の有用性を検討してきた。2010年より単施設による臨床試験を開始し、2018年にUS 10項目をスコア化したHokUS-10によるSOS/VOD診断における有用性を報告した[1]。HokUS-10は世界的にも認知されつつあるが、単施設での検討のため多施設での検証も必要であること、HokUS-10では項目数が多く煩雑であることから6項目まで減らしたHokUS-6の有用性についても現在、検討を開始し、多施設前向き臨床試験を行っている。
[1] Nishida M, Kahata K, Hayase E, et al. Novel Ultrasonographic Scoring System of Sinusoidal Obstruction Syndrome after Hematopoietic Stem Cell Transplantation. Biol Blood Marrow Transplant. 2018;24:1896-900.
全世界で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するワクチン接種が進む中、副反応として血小板減少を伴う血栓症が問題となっている。2021年3月以降、ChAdOx1 nCoV-19(アストラゼネカ社)接種後に、脳静脈血栓症や内臓静脈血栓症など非典型的な部位での血栓症イベントと同時に血小板減少症をきたし、致死的出血も併発することが報告された(1-3)。患者血中から血小板第4因子(platelet factor 4: PF4)に対する自己抗体(抗PF4抗体)が検出され、in vitroでは抗PF4抗体が血小板を活性化させることが確認されたことで、自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症(autoimmune heparin-induced thrombocytopenia: aHIT)と類似した病態と捉えられている。つまりこの副反応は、SARS-CoV-2ワクチンにより抗PF4抗体が産生され、その抗体が血小板を活性化し、消費性に血小板減少を引き起こし、活性化血小板によりトロンビンが過剰産生されて血栓症を発症すると想定されている。その病態から、vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia(VITT)や血小板減少を伴う血栓症(Thrombosis with thrombocytopenia syndrome: TTS)と呼称されている。TTSの特徴は1) ワクチン接種後4-28日に発症する、2) 血栓症(脳静脈血栓症、内臓静脈血栓症など通常とは異なる部位に生じることが多い)、3) 血小板減少(中等度〜重症)、4) 凝固線溶系マーカー異常(D-dimer著増など)、5) 抗PF4抗体(ELISA法)が陽性となる、が挙げられる。TTSの頻度は1万人から10万人に1人以下と極めて低いが(4)、出血や著明な脳浮腫を伴う重症脳静脈血栓症が多く致死率も高い。
また、ChAdOx1 nCoV-19と同じアデノウイルスベクターワクチンであるAd26.COV2.S(Janssen/Johnson & Johnson)でも同様のTTSが生じることが報告されている(5, 6)。一方、BNT162b2(ファイザー社)やmRNA-1273(モデルナ社)のワクチン接種においても抗PF4抗体の産生(7)されることが報告されているが、実際にTTSを発症したのはそれぞれ1例しか報告されていない(8, 9)。
TTSの診断は1回目のワクチン接種後4-28日の期間に血小板減少を伴う血栓症を発症し、抗PF4抗体(ELISA法)が陽性を証明することである。可能であれば機能的測定法(患者血清/血漿で健常者血小板が活性化するか判定する方法)が陽性であることを示すことも重要と報告されている。しかし、抗PF4抗体検出について、本邦でHITの診断に用いられているラテックス凝集法または化学発光免疫測定法は、TTSでは偽陰性になることが報告されているので、ELISA法での確認が必要である(3, 6)。
2022年になり武田社からノババックス®、ジョンソン&ジョンソン社(JJ社)のワクチンも承認され、それらのワクチン接種後の調査も必要となっている。
本研究は、SARS-CoV-2ワクチン接種後(ファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社、武田社、JJ社)に①血小板減少を伴う血栓症、または②血小板減少症のみ、または③血栓症のみ、を発症した者を対象にELISA法による抗PF4抗体を測定し、陽性者には機能的測定法を行って、検出された抗PF4抗体が血小板活性化能を有するか確認する臨床研究である。以下に該当する症例を診察し、ELISA法による抗PF4抗体測定を希望される方は事務局(vitt-pf4@huhp.hokudai.ac.jp)まで連絡をください。
本研究は、2021年度AMED循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業(研究課題名:COVID-19感染による血栓症発症・増悪機転の解明と治療介入の可能性の解明、研究代表者:浦野哲盟)からの研究資金にて実施しています。
資料1:研究対象者募集(PDF)
資料2:検体送付の手順書(PDF)
研究対象者及び適格性の基準
(1)対象者のうち、(2)選択基準をすべて満たし、かつ(3)除外基準のいずれにも該当しない場合を適格とする。
- 対象者
2021年8月9日~2026年3月31日の間にSARS-CoV-2ワクチン接種後(ファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社、武田社、JJ社)に①血小板減少を伴う血栓症、または②血小板減少症、または③血栓症、を発症した者を対象とする。 - 選択基準
- 包括同意取得時の年齢が12歳以上の者
- SARS-CoV-2ワクチン接種後の者
- 本研究への参加にあたり十分な説明を受けた後、十分な理解の上、研究対象者本人の自由意思による同意が得られた者、もしくは研究の参加について拒否しない者
- 除外基準
- SARS-CoV-2ワクチンを接種していない者
- SARS-CoV-2ワクチン接種後2ヶ月以降に発症した者
- その他、研究責任者が研究対象者として不適当と判断した者
研究事務局 | 北海道大学病院検査・輸血部(安本 篤史) |
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共同研究機関 | 金沢大学、浜松医科大学、山梨大学、東北大学、国立循環器病研究センター |
既存試料・情報の提供のみを行う機関 | 柏たなか病院(脳神経外科)、亀田総合病院(血液・腫瘍内科)、済生会熊本病院(脳神経内科)、名古屋市立大学医学部付属西部医療センター(脳神経外科)、川口市立医療センター(脳神経内科)、横浜市立みなと赤十字病院(脳神経内科)、愛媛県立中央病院(脳神経内科)、大阪大学医学部付属病院(免疫内科)、昭和大学(呼吸器アレルギー内科)、城南福祉医療協会 大田病院(内科)、慶應義塾大学医学部附属病院(神経内科)、杏林大学医学部付属病院(脳卒中科)、気仙沼市立病院(脳神経外科)、大垣市民病院(脳神経外科)、京都府立医科大学(血液内科)、NTT東日本関東病院(脳血管内科)、日本医科大学(血液内科)、徳島大学(血液内科)、弘前脳卒中・リハビリテーションセンター(内科)、 東海大学医学部付属八王子病院(血液腫瘍内科)、JR東京総合病院(血液内科)、横須賀市立うわまち病院(救急総合診療部)、大阪回生病院(外科)、鹿児島市立病院(脳神経内科)、金沢大学(血液内科)、中東遠総合医療センター(小児科)、城北病院(内科)、藤田医科大(救急総合内科)、埼玉医科大学総合医療センター(リウマチ・膠原病内科)、京都府立医科大学(乳腺外科)、大阪警察病院(循環器内科)、岩手医科大学病院(肝臓内科)、湘南藤沢徳洲会病院(脳神経内科)、群馬大学医学部附属病院(循環器内科)、神戸協同病院(内科)、宗像水光会病院(脳神経外科)、山口大学医学部附属病院(第3内科)、市立大町総合病院(内科)、唐津赤十字病院(脳神経外科)、駒込病院(脳神経内科・総合診療科)、千葉徳洲会病院(脳神経外科)、獨協医科大学病院(脳神経内科)、白十字病院(脳血管内科)、自治医科大学附属さいたま医療センター(麻酔科・集中治療部)、南砺市民病院(内科)、県立宮崎病院(内科)、浜松医科大学(小児科)、新渡戸記念中野総合病院(脳神経内科・内科)、熊本労災病院(皮膚科)、札幌東徳洲会病院、九州大学病院(心臓血管外科)、神戸大学医学部附属病院(神経内科)、金沢大学附属病院(呼吸器内科)、野崎徳洲会病院(心臓外科)、松山赤十字病院(血液内科)、東京慈恵会医科大学附属病院(脳神経内科)、岡崎市民病院(心臓血管外科)、高松市立みんなの病院(内科)、住友病院(膠原病・リウマチ内科)、岐阜県総合医療センター(小児科)、千葉大学医学部附属病院(心臓血管外科)、小倉記念病院(血液内科)、名張市立病院(循環器内科)、自治医科大学附属病院(神経内科)、済生会福岡総合病院(外科)、虎の門病院(臨床腫瘍科)、太田記念病院(脳神経内科)、長野赤十字病院(血液内科)、高知赤十字病院(糖尿病・腎臓内科) |
Reference
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- Scully M, Singh D, Lown R, Poles A, Solomon T, Levi M, Goldblatt D, Kotoucek P, Thomas W, Lester W. Pathologic Antibodies to Platelet Factor 4 after ChAdOx1 nCoV-19 Vaccination. N Engl J Med. 2021 Apr 16. doi: 10.1056/NEJMoa2105385.
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当院で参加している多施設臨床研究
登録関連
臨床研究名 | 登録開始 |
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造血細胞移植および細胞治療の全国調査(TRUMP) | 2018/7/1 |
(疫学調査)北海道の血液疾患発生状況の把握: NJHSG registration protocol | 2019/4/1 |
日本における血液疾患患者を対象とするCOVID-19罹患状況、予後に関する横断研究 | 2021/7/8 |
【難病プラットフォーム】再生不良性貧血の症例登録・追跡調査研究 | 2022/11/9 |
造血幹細胞移植
臨床研究名 | 登録開始 |
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北日本血液研究会における臍帯血移植の前向き観察研究(NJHSG-CBT18) | 2018/7/1 |
同種造血幹細胞移植後の抗ヒト胸腺細胞グロブリン体内動態および免疫パラメーターの解析 | 現在更新中 |
同種造血幹細胞移植後の卵巣機能評価 | 2016/10/1 |
体外式超音波検査のスコア化による肝類洞閉塞症候群(SOS)/中心静脈閉塞症 (VOD)診断の多施設共同前向き観察研究 | 2021/2/1 |
急性白血病
臨床研究名 | 登録開始 |
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急性白血病における遺伝子変異と治療反応性・白血病発症機序の解明(北海道白血病ネット) | 2016/5/1 |
急性前骨髄球性白血病に対する治療プロトコール FBMTG APL2021 | 2021/10/18 |
成人急性リンパ性白血病に対する治療プロトコール JSCT-ALL/MRD2023 | 2022/11/24 |
t(8;21)およびinv(16)陽性AYA・若年成人急性骨髄性白血病に対する微小残存病変を指標とするゲムツズマブ・オゾガマイシン治療介入の有効性と安全性に関する臨床第II相試験 (JALSG CBF-AML220) | 2020/11/13 |
リンパ腫
臨床研究名 | 登録開始 |
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アグレッシブATLにおける予後因⼦の検討と個別化医療の確⽴を⽬的とした全国⼀元化レジストリおよびバイオレポジトリの構築 | 2022/4/1 |
悪性リンパ腫における遺伝子変異と分子病態・治療反応性の検討 (NJHSG_ML23) | 申請中 |
多発性骨髄腫
臨床研究名 | 登録開始 |
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抗CD38抗体療法後のElotuzumab投与に関する観察研究 |
その他
臨床研究名 | 登録開始 |
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造血器腫瘍における遺伝子異常の網羅的解析 | 2021/10/6 |
Multiplex PCR法を用いた免疫不全患者における日和見感染病原体の網羅的解析 | 2022/3/25 |
Multiplex PCR法を用いたAIDS患者における髄液中病原体の網羅的解析 | 2020/5/1 |
成人血友病患者の合併症に関する縦断的研究 | 2020/5/19 |
血小板マイクロパーティクル法による抗血小板第4因子(PF4)/ヘパリン複合体抗体の機能解析 | 2023/3/27 |
希少造血器腫瘍に対する遺伝子プロファイリングと 標的治療に関する前向きレジストリ臨床研究(MASTER KEY HEM) | 2018/10 |
血液疾患とIL-6アンプ (血液疾患における免疫細胞の網羅的解析) | |
血液疾患におけるチキサゲビマブ/シルガビマブ(エバシェルド)投与による新型コロナウイルス感染症の発症抑制効果および中和抗体価推移の検討 | 2022/10/27 |